「シテロ-ン」の有効成分である酢酸シプロテロンは細胞における男性ホルモンの作用を抑制する抗アンドロゲン薬です。
酢酸シプロテロンはアンドロゲン受容体に結合することにより男性ホルモンであるテストステロン、ジヒドロテストロン作用を遮断します。
またプロゲステロン(黄体ホルモン)を抑制することによってテストステロンの分泌を抑制する作用もあるといわれています。
酢酸シプロテロンは開発された抗アンドロゲン(男性ホルモン)薬の中でもっとも強力なものであると言われており、男性においては前立腺がん、前立腺肥大症、持続性勃起症、性行動亢進などの治療に、女性においてはにきび、多毛症などの治療に用いられています。
また、性同一性障害を抱えている男性等の、男性から女性のトランスセクシャル治療の際に服用される成分としても知られています。
**前立腺がん**
前立腺とは男性生殖器の一つで精液の分泌、射精、排尿のコントロールにおいて重要な役割を果たしている臓器です。
前立腺は大きく分けて内腺(中心、移行領域)と外線(辺縁領域)に分けられますが、前立腺がんとは前立腺の内腺にできる良性腫瘍の前立腺肥大症と異なり、前立腺の外腺にできる悪性腫瘍です。
50歳以上の高齢者において罹患率が高いのが特徴で、比較的進行の遅いがんといわれており、早期発見であれば完治できるとも言われています。
ただし初期症状がほとんどないために発見が遅れることも多々あり、また比較的早い段階からリンパ節や骨などに転移する傾向があります。
前立腺がん症状としては頻尿、排尿困難、尿や精液に血液が混ざる、射精時の痛み等が挙げられます。
前立腺の機能については未知の部分が多いとされていますが、精子の保護や運動機能を補助する前立腺液の分泌や、性的興奮時に収縮して精液を尿道に押し出す役割がその機能の一部であると言われています。
このような役割から前立腺は生殖臓器の一部として位置づけられて、その成長、機能は男性ホルモンの影響を強く受けているといわれています。
男性ホルモンは通常アンドロゲンという総称で呼ばれアンドロゲン受容体に結合することによって男らしさを発達、維持します。
代表的なアンドロゲンは95%が精巣から分泌されるテストステロンと呼ばれるホルモンです。
テストステロンは細胞核内でDNA転写を調節するアンドロゲン受容体という核内受容体に結合し、胎児や乳児の睾丸の形成、思春期から成人における筋肉増大、声変わり、毛深さ、ペニスを始めとした男生殖器の成熟などの男性的な特徴の発達させます。
また、精原細胞と呼ばれる精子を形成する初期細胞を識別する精巣のセルトリ細胞の活性化による精子の発育作用を発揮します。
テストステロンの受容体との結合力は標的細胞内で5α-リダクターゼという酵素によって変換されるジヒドロテストステロン(DHT)という代謝物によってより強められています(結合力はテストステロンの3~5倍と言われています)。
前立腺がんの発症とテストステロンの関わりの有無については賛否両論あり、現在のところ、統一した見解はありません。
しかし一般的に前立腺がん腫瘍の増殖はテストステロンの刺激によるものといわれています。
そのために前立腺がん治療においてはテストステロンを遮断する内分泌治療(ホルモン治療)が有効になります。
以前はテストステロンのほとんどを産生する精巣の除去が行われていましたが、最近では精巣除去と同様の効果を持つホルモン剤が登場したため、薬物治療による内分泌治療が一般的です。
「シトロ-ン」の有効成分酢酸シプロテロンはアンドロゲン受容体に競合的に結合することによってテストロン、ジヒドロテストステロン(DHT)の受容体への結合を阻害します。
またテストステロンは下垂体から分泌される黄体形成ホルモンは精巣でのテストステロン分泌に刺激を与えるとされていますが、酢酸シプロテロンはこのプロゲステロンの分泌を抑制することによって、精巣でのテストステロンの分泌量を抑える効果があると言われています。
**LH-RHアゴニスト治療薬とは**
LH-RHとは脳の間脳や視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモンのことであり、このホルモンが下垂体のLH-RH受容体に結合することによって、精巣で産生されるテストステロン分泌を刺激する黄体形成ホルモン(LH)及び卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を促進します。
LH-RHアゴニスト治療薬とはLH-RHホルモンに似た構造によってLH-RH受容体に結合してLH-RHが受容体に結合することを阻害します。
そのことにより下垂体からからの黄体形成ホルモン(LH)の分泌が抑制され、精巣からテストステロンが分泌されなくなります。
つまりLH-RHアゴニスト治療薬を投与することによって、精巣摘出と同等の治療効果がみられるようになります。
初回のLH-RHアゴニスト治療薬投与後にはテストステロン分泌の上昇による症状の悪化がみられますが、これはあくまでも一時的なものです。
**女性における使用**
テストステロンは男性だけでなく、女性の副腎や卵巣からも分泌されていることが知られており、血中テストステロン量で比較すると男性の5~10%と言われています。
女性においてこのテストステロンが過剰分泌されているような場合は、にきびや男性型ひげを特徴とするような多毛症といった症状が現れます。
これは特にジヒドロテストステロン(DHT)が皮膚、毛根部、皮脂に作用するために起こると言われています。
これらの症状においてはテストステロンを遮断することによって改善がみられるため抗アンドロゲン治療が有効と言われています。
しかし妊娠時における「シトロ-ン」の服用は男胎児における女性化を引き起こすと言われていますので、服用の際にはプロゲステロン・エストロゲン合剤(経口避妊薬)との併用が必要とされます。