ティレ―ド・インヘラーは、抗アレルギー作用、よび抗アレルギー性炎症作用を持つピラノキノリン誘導体であるネドクロミルナトリウムを有効成分とした、エアロゾールタイプの抗気管支喘息薬です。肺機能の改善、発作の頻度と重度の減少、気管支けいれん、咳および気管支過敏症を緩和する気管支喘息長期管理薬(コントローラー)となります。
気管支喘息とはアレルゲンや刺激に対する細胞の免疫機能によって引き起こされる慢性的可逆性気道閉塞性で、発作時の喘鳴と呼吸苦を特徴とする疾患です。
日本での有病率は人口の約3~5%、世界中では約3億人が罹患者であるとされ、その数は年々増加しています。
症状が現れない平常時と激しい発作時の2つの状態が存在し、激しい発作時には、呼吸困難、喘鳴、胸が締め付けられるなどの症状が現れます。
喘息の発作時には気道細胞の炎症によって気道平滑筋が緊縮し、それによる可逆性気道閉塞のために呼吸困難が起こります。
重篤な発作になると命に関わるケースもあるため、従来の治療では発作症状を抑えて気道を確保することが第一とされ、発作時の気管支拡張薬の使用や発作を起こすアレルゲンの除去に重点が置かれていました。
しかし近年の研究により、気管支喘息の発作の原因が患者のアレルゲン吸入反応による慢性的な気道炎症によるものであることが判明したため、平常時における気道過敏性による過剰炎症を抑制し、その抑制状態を維持していくことが喘息治療において重要であるとされるようになりました。
喘息発作時においては気道確保のために気道拡張の強さ、即効性、そして副作用の少ない治療薬として吸引タイプのβ2受容体刺激薬やテオフィリン剤などが発作時治療薬(レリーバー)として広く用いられています。
これらのレリーバー薬は発作症状を軽減する目的でのみ用いられており、喘息そのものを改善するものではありません。
長期管理薬(コントローラー)は慢性化している気道炎症の抑制により、炎症を起こす要因となる気道過敏性を改善することにあります。
また、気道の過剰炎症抑制状態の維持は喘息発作の予防を可能とし、気道過敏性の改善は発作の頻度と重度を軽減するなど長期間にわたっての病状のコントロールが目的となります。
喘息治療においてはこのような長期管理薬(コントローラー)と発作治療薬(リリーバー)の使い分けが必要不可欠となっています。
ネドクロミルナトリウムは炎症を触媒するさまざまな物質の細胞からの放出や、侵入してきた刺激物質に対する好酸球や好中球などの白血球の増加を抑制する作用があります。
人間の肺胞のマクロファージ(体内に侵入してきた異物を処理する大食細胞)、気管支上皮細胞、肥満細胞は気管支喘息のトリガーとなる物質に対して強力な炎症効果を持ったサイトカンという細胞増殖因子を発生させますが、ネドクロミルナトリウムはそれらの発生を大幅に抑制すると同時に、肥満細胞から造り出されるヒスタミンやエイコサノイドなどの炎症食新触媒の細胞からの遊離も阻害します。
さらに、ネドクロミルナトリウムは初期の炎症反応や気管支過敏症状に対して服用されれば後に同じ抗原がトリガーとなって引き起こされる気管支炎症反応をも抑える作用も持ち合わせているため気管支過敏性が改善されます。
そのうえ個々の気管支平滑筋に存在する感覚神経の活性化による気管支閉塞をも抑えることができるといわれ、運動、霧、冷気、アデノシン酸などの原因が特定されていない誘発原因で引き起こされる気管支けいれんを効果的に予防することができると言われています。
ネドクロミルナトリウムの抗炎症効果は、ティレ―ド・インヘラーを16週間服用した後の気管支肺胞洗浄液内に見られる抗原に誘導された好酸球流入の抑制状態や気管支粘膜下の活性型好酸球の数の減少で確認されています。