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2011-08-11
ソース(記事原文):ニュースワイズ
乳癌が肺に転移する仕組みを発見
ニュースワイズ(2011年8月11日)― 情報源:ジョンズ・ホプキンス・メディスン(Johns Hopkins Medicine)
-- ジギタリスが肺への転移を軽減させる
乳癌の遠隔転移は乳癌死亡例の90%以上の原因となっている。このたび、その遠隔転移の過程がジョンズ・ホプキンス(Johns Hopkins)の研究者らによって解明された。2つの医学誌の発表によれば、乳癌細胞を移動させて肺で受け取れるようにするスイッチを同研究者らが発見した。
今回の結果は、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Science)9月12日号早版と、医学誌オンコジーン(Oncogene)8月22日号の2誌に発表された。
ジョンズ・ホプキンスのマキュージック・ネイサンズ遺伝子医学研究所(McKusick-Nathans Institute of Genetic Medicine)の研究員で、細胞工学研究所(Institute for Cell Engineering)の血管プログラム責任者かつ医学教授(C.Michael Armstrong Professor of Medicine)のグレグ・セメンサ(Gregg L.Semenza)博士は、「乳癌は遠隔転移すると、局所的で治癒可能であったものが、全身性かつ致死性なものへと変わる」と語った。「遠隔転移とは癌の後期における進展であると長く考えられてきたが、それがHIF-1によって左右される初期の進展であることを今回明らかにした」
HIF-1タンパク質は、固形腫瘍内の細胞のように、低酸素でも細胞が生存できるよう遺伝子を制御するものであり、セメンサ氏のチームが約20年前発見したものである。最近、他の研究者らによって、乳癌患者におけるHIF-1の活動亢進が、遠隔転移の増加や生存減少と相関することが明らかにされた。
HIF-1が乳癌の肺転移に果たす役割を明らかにするため、同研究チームは乳癌細胞から生成される酵素によって転移細胞の到着に備える肺について最初に検討した。ヒト乳癌細胞を用いて、これらの酵素をコードする遺伝子を調べたところ、HIF-1がDNAに結合する領域を発見した。HIF-1は低酸素環境下で活動することから、同チームは遺伝子組み換えを用いて細胞が作り出すHIF-1量を減少させ、次に通常酸素量または低酸素量の中で増殖させた細胞中において酵素生成に関わる遺伝子がどの程度活性するのかを検討した。その結果、これらの細胞はHIF-1が存在しないと酵素を生成できないことが判明した。
次に、同チームはこれと同じヒト乳癌細胞(通常量のHIF-1を作り出す細胞と、少量のHIF-1を作り出す細胞)をマウスに移植し、45日後に肺を調べた。通常量のHIF-1を作り出す乳癌細胞と比較して、HIF-1量が少ない乳癌細胞では、腫瘍サイズはより小さく、肺の変化も少なかったことから、HIF-1は肺転移に不可欠なものであると結論づけられた。
乳癌細胞が肺転移するには、乳房を出発し、肺につながる血管に入り、その同じ血管から抜け出さなければならない。セメンサ氏は「血管はきつく引き締まっており、細胞が血管壁を通り抜けるには相当強く働きかける必要がある」としている。「HIF-1は乳癌細胞の到着に備えるように肺を誘発するので、血管内外へ細胞が出入りすることにHIF-1も関与しているのではないかと考えた」
セメンサ氏のチームは、低酸素で増殖した乳癌細胞を用いて、転移に関与することで知られる88個の遺伝子活性を調査した。低酸素に反応して活性化する遺伝子を探したところ、アンジオポエチン様4という遺伝子と、ANGPTL4として知られるL1細胞接着分子(L1CAM)という遺伝子を同チームが発見した。この2つの遺伝子を中心としたDNAをさらに調べたところ、HIF-1が結合する領域が判明したほか、細胞からHIF-1を除去するとこの2つの遺伝子は活性化できなくなることが分かった。
通常量のANGPTL4を有する細胞、もしくはANGPTL4を「ノックダウン(発現抑制)」した細胞をマウスに注入して、その肺を調べたところ、乳癌細胞がANGPTL4を活性化すると、細胞が血管壁を通って移動しやすくなることが同チームによって明らかにされた。HIF-1を欠損しているが、ANGPTL4を多量に含む細胞の場合は、通常量のANGPTL4を有する細胞よりも、肺に浸潤しやすかった。以上から、同研究者らは細胞が血管から抜け出るのをANGPTL4が促進すると結論づけた。また、このことはL1CAMにも当てはまることも明らかにされた。
最後に、数年前セメンサ氏のチームは不整脈の治療に通常用いられるジギタリス/ジゴキシンが、HIF-1の生成を遮断し、肝臓癌と前立腺癌の細胞増殖を止めることを見出した。遠隔転移する乳癌でもジギタリスが同じ作用をするのか確認するため、同研究者らはヒト乳癌細胞をマウスに移植した。その2週間後、1日1回ジギタリスまたは生理食塩水のいずれかをマウスに注射した。ジギタリスで治療したマウスの方が、肺転移が少なく、かつ小さいことが明らかとなった。
セメンサ氏は「これを大変興味深く捉えている」としている。「ジゴキシンの有効治療域はしっかり確立されており、今回の結果から、使用した投与量がHIF-1を十分に遮断し、かつ乳癌増殖と転移を遅らせるのに足りるものであるのか判定するため、さらなる臨床試験が必要とされる」と続けた。
本研究を助成したのは、エメラルド財団(Emerald Foundation)、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)、ジョンズ・ホプキンス細胞工学研究所(Johns Hopkins Institute for Cell Engineering)、クラウチャー財団(Croucher Foundation)、がん医療ナノテクノロジーの博士課程修了後トレーニングプログラム(Training Program in Nanotechnology for Cancer Medicine)である。
PNAS(米国科学アカデミー紀要)の著者は、カルメン・ウォン(Carmen Chak-Lui Wong)、ダニエル・ギルクス(Daniele Gilkes)、ホアファング・チャン(Huafeng Zhang)、ジャスパー・チェン(Jasper Chen)、ホン・ウェイ(Hong Wei)、パラビ・チャトヴェディ(Pallavi Chaturvedi)、ステファニー・フラレイ(Stephanie Fraley)、デニス・ウィルツ(Denis Wirtz)、グレグ・セメンサ(Gregg Semenza)のほか、ジョンズ・ホプキンスの全研究員と、香港大学(University of Hong Kong)のクン-ミン・ウォン(Chun-ming Wong)、ウイ・スン(Ui-Soon)、ホー(Khoo)、イレネ(Irene Oi-Lin Ng)である。
医学誌オンコジーン(Oncogene)の著者は、チャン(H. Zhang)、ウォン(C.C.L. Wong)、ウェイ(H. Wei)、ギルクス(DM Gilkes)、コランガス(P.Korangath)、チャタルバディ(P.Chaturvedi)、シト(L.Schito)、チェン(J. Chen)、クリシュナマチャリ(B.Krishnamachary)、ウィナード(P.T.Winnard Jr.)、ラーマ(V.Raman)、ゼン(L.Zheng)、ミツナー(W.A. Mitzner)、スクマー(S.Sukumar)、グレグ・セメンサ(Gregg Semenza)、ジョンズ・ホプキンスの全研究員である。
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