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2012-01-06
ソース(記事原文):ニューヨーク・タイムズ紙
医師の目線で考えてみよう:アイスピック痛が解消!
ニューヨーク・タイムズ紙(2012年1月6日)― リーザ・サンダース(LISA SANDERS)著
頭部にシュー(またはヒュー)という音が感じられ、左側の首と頭に鋭い穿刺痛が認められる中年女性の診断を見立ててもらえるように、水曜日に雑誌「Well(ウェル)」読者へ申し出た。約400人の読者から、この患者の問題について非常に思慮深い評価判定が書き送られてきた。
正診は……持続性片側性頭痛である。
ボストンのブリガム&ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)神経眼科医サシャンク・プラサド(Sashank Prasad)氏から午前11:15頃に届いたものが唯一の正しい回答であった。同氏は、多くの慢性頭痛の主な特徴には眼の合併症がみられることから、頭痛患者を診察することが多いという。私が別の読者に出したコメントの中で、患者の回復には手術を必要としなかった旨を記載していたことで、患者の痛みの原因として同氏が持続性片側性頭痛に着目することにつながった。この疼痛症候群(持続性片側性頭痛)の特性の1つは、イブプロフェンやナプロキセンと同じ系統の薬剤タイプであるインドメタシンに対して一般に感受性があるということである。
診断:
持続性片側性頭痛は1980年代初期に初めて報告された日常的頭痛の一種であり、この患者に認められた症状、つまり頭部片側の持続痛のほか、鋭痛または穿刺痛と呼ばれる更なる激痛が散在することで特徴づけられる。この症状には一般に流涙、鼻水、眼瞼腫脹、または瞳孔の収縮をはじめとする顔面症状が随伴する。
このタイプの頭痛患者のほとんどはインドメタシンで治療すると改善する。持続性片側性頭痛は別の抗炎症薬に反応することもあるが、特にインドメタシンによる効果が優れており、それがこの疾患の明確な特徴となっている。
男性よりも女性に多くみられ、20代の患者が最も多いが、どの年齢層でも発症し始める。
どのように診断に辿り着いたのか:
2~3週間後、患者が再診に訪れた際、診察後に頚動脈の組織炎症が原因の頚動脈圧痛と呼ばれる疼痛症候群のようなものが考えられると患者に告げた。この疾患は原因不明だが、片頭痛の既往のある患者に起こることが最も多い。解離や腫瘍のような頸動脈の損傷に関連している場合もあるが、複数回のスキャンでは問題を発見できなかった。また、頚動脈圧痛と拍動性耳鳴は、頚動脈の異常が認められる患者に多くみられると判断した。前の投稿で説明したように、この患者には異常な頚動脈捻転と頚動脈蛇行が認められた。
頚動脈圧痛は一般に片頭痛の予防に用いる薬剤により治療することができる。患者に対し片頭痛予防薬に最もよく使われるβ遮断薬を既に試してみたが、忍容性がなかった。そこで、てんかん発作を予防する目的で開発され、片頭痛の予防にも効果的に用いられている薬剤トパマックスを投与してみることを提案した。こうした種類の薬が効かなければ、患部に神経ブロック注射を打つことを検討してみようと患者に話した。ようやく診断と治療法が見つかったかもしれないと患者は楽観的になり病院を後にした。それから1ヵ月後、再診の予約が入った。
幸運:
一方、自宅に戻った後、私はせわしく勉強していた。というのも、内科医は米国内科試験委員会(American Board of Internal Medicine)の専門医資格を維持するため、10年ごとに試験を受けなければならない。我々が最新の医療行為に遅れをとっていないか同委員会が見極める1つの手段となっている。2011年11月に一日がかりで実施される予定のこの試験のために、ここ18ヶ月間勉強していた。
読みものをしていると、ビクトリア朝風の病名が付いた稀な疾患の文献に出くわした。その疾患を思い出せなかったので、グーグルで検索し、詳しく読んだ。病名は持続性片側性頭痛というものであった。最初に私がクリックしたサイトは、この疾患の罹患患者によって書かれたものであった。
彼女は苦痛を伴っており、症状を読んでいくにつれ、自分の患者と話しているかのようであった。この頭痛は、不断の片側性穿刺痛であり、医学文献に目を移すと、自分の患者が1点を除き全ての診断基準を満たしていることが分かった。この疾患を有する患者は、流涙、腫れた眼瞼、または片側性の瞳孔収縮などの眼の症状が一般に認められる。
患者とのやり取り:
自分の発見に気持ちが高まり、次の予約日まで待てずに患者に電話した。トパマックスの効き具合について尋ねてみたが、あまり効果はないという返事だった。患者は2週間後に服用をやめていた。痛みには効かず、服用すると「自分がとてつもなく愚か」に感じたという。
「痛みの原因になりうる新たな考えに辿り着いたが、その前に2点質問がある」と患者に告げた。頭痛が最も激しいとき、流涙または眼瞼腫脹が生じるか尋ねてみると、「生じる」という返答だった。左眼だけ、時々まるで風邪をひいたかのように感じたことがあるという。また、眼の瞳孔が何か違うと感じたことがあるか尋ねてみると、「ある」と答えた。痛みが最も激しくなると、瞳孔がしばしば同じ大きさでないことに気づいたという。患者はこれらの症状について尋ねられたことはなく、かなり軽度であったため、話そうとも思わなかったという。
今度はすっかり興奮して、自分の偶然の発見について説明すると、2週間のインドメタシン投与を開始するよう告げた。もし持続性片側性頭痛であるなら、この薬で改善するはずである。電話を切り、心の中で成功を祈った。
患者のその後の容態:
2~3週間後、患者と再び話した。「具合はどうですか」、「頭痛はいかがですか」という私の質問に、患者は笑いながら一蹴し、体調は良好だと答えた。患者の声は弾んでおり、喜びが聞き取れた。
頭痛は消失した。それも完全に。約1週間服用しても効果がなかったので、ほぼ諦めかけていたら、突然頭痛が消えたという。何の前触れもなく。患者はほんとに驚いたとしている。
不思議なことにシューという音も頭から消え去った。その理由は私にも説明がつかない。この音はここ数週間で薄れており、新しい薬を服用し始める以前からその傾向があり、今は特定の姿勢に頭を置くと、時折聞こえるだけだという。
2週間後にインドメタシンの服用をやめたが、頭痛が再発することはなかった。たとえ再発しても、何をすべきか把握していると患者は私に語ってくれた。自分が普通だと実感するのは数年ぶりだという。血圧は1剤でよくコントロールできているが、いったん体調が回復したら必要なくなるのではないかと患者は期待している。実際、ハイキングに行く準備が進められていた。何年も運動できずにいたので、体調を立て直して、過去の活動水準に戻れるよう一生懸命頑張っていた。
私の最初についた職業はテレビ・ジャーナリストで、その当時、野球界の素晴らしい一節が引用されるのをよく耳にしたものだった。ニューヨークヤンキースのレフティ・ゴメス(Lefty Gomez)氏によるものである。彼曰く、自分は優れた選手というよりも、むしろ幸運な選手だという。これは医学にも当てはまると思う。私が勉強していたのは幸運であり、記憶のあやふやな疾患の記述に偶然出くわしたのもラッキーであった。今回の診断をいとも簡単に見落とすところだったと悟るのは屈辱的なことである。幸運なのか優秀なのか、どうしても二者択一しなければいけないだろうか? 率直に言って私は両方でありたい。
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