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2012-10-07
ソース(記事原文):ザ・スター・オンライン
厄介な血栓
ザ・スター・オンライン(2012年10月7日)― 「The Doctor Says」誌、医師ミルトン・ラム(MILTON LUM)著
静脈に形成される血栓(静脈血栓塞栓症)が出現する確率は、妊娠中に高くなる。
血液は動脈(血管)を通って心臓から各身体部位に運ばれ、静脈という別の血管を通って心臓に戻ってくる。
静脈は浅静脈と深静脈に分類される。浅静脈は体表近くにあるのに対し、深静脈は身体の深部にあり、動脈に伴行していることが多く、例えば、腸骨動脈のすぐ近傍に腸骨静脈がある。
動脈と静脈は構造的に異なる。動脈には静脈にない筋肉層があるとともに弁も付いている。
血栓は動脈または静脈の中に形成される(血栓症)。動脈血栓症は動脈が担う身体部位への血流を滞らせるものである。
静脈の血栓症は、医学用語で静脈血栓塞栓症(VTE)という。静脈血栓塞栓症はあらゆる身体部位の静脈で起こりうる。発生頻度が高い部位は、下肢静脈または骨盤静脈、もしくはその両方(深部静脈血栓症の原因となる)と、肺静脈(肺塞栓症の原因となる)である。
深部静脈血栓症の最も重篤な合併症は、致死的ともなる肺塞栓症である。肺塞栓症は、血栓が分離し、それが肺に移動して詰まることで生じるもので、その病変部への血流が滞ってしまう。
深部静脈血栓症の出現確率は、妊娠期間中および出産直後6週間において高い。その発症リスクは500人に1人の割合となっており、同年代の妊娠していない女性に認められるリスクの10倍である。
深部静脈血栓症または肺塞栓症、もしくはその両方が出現するリスクが最も高くなるのは、出産後の産褥期である。ただし、深部静脈血栓症または肺塞栓症、もしくは両方は、妊娠初期の3ヵ月を含み、どの時点でも起こりうることを念頭に置いておくことが重要である。
静脈血栓塞栓症の約10%~20%が肺塞栓症であり、先進国や、マレーシアをはじめとする発展途上国における母体死亡の主な原因となっている。
リスク因子の解明
いくつかのリスク因子が存在し、遺伝性のものもあれば、後天性のものもある。これらのリスク因子は罹患者の約80%で特定可能である。1人の患者に対して2つ以上のリスク因子が認められるのは珍しくない。
遺伝性リスク因子には、第V因子ライデン変異、プロトロンビン遺伝子G20210A変異、アンチトロンビンIII欠乏症、プロテインC・S欠乏症、プラスミノーゲン異常症、プラスミノーゲン活性化異常、濃厚な家族歴(母、父、兄弟、または姉妹が深部静脈血栓症を有する)などがある。
後天性リスク因子には、肥満(肥満度指数[BMI]30kg/m2以上)、喫煙、静脈内薬物の使用、不動状態(5日以上のベッド安静)、血栓症の既往、外傷、癌、感染症、ネフローゼ症候群、脳血管系事象、重篤な静脈瘤(特に痛みを伴う場合)、4時間以上の長距離旅行などである。
妊娠に関連するリスク因子には、35歳以上の出産、複産(3人以上出産)、深部静脈血栓症の既往、高血圧、脱水、心臓病・肺疾患・関節炎などの内科系疾患、多胎妊娠(双子以上)、入院が挙げられる。
出産に関連するリスク因子には、遷延分娩(遅産)、機械分娩(鉗子分娩など)、帝王切開、出産後の出血、輸血がある。
静脈血栓塞栓症のリスクは増減することがある。リスクが増加しうるのは、最初のリスク因子に加えて別の因子が発生した場合である。例えば、肥満の母親が分娩中に合併症を起こすなどがある。一方、禁煙でリスクが低下することもある。
妊娠時や妊娠中に変化が起きた場合と、入院時および出産後において、産婦人科医と助産婦によって妊婦のリスクが評価される。
深部静脈血栓症と肺塞栓症の臨床的特徴は、妊娠してない人と同じである。
深部静脈血栓症の特徴には、脚の違和感または痛み(もしくは両方)、腫れ、圧痛、温感、白血球数増加などがある。腹部痛を認めることもある。これらの症状のいくつかは、正常妊娠においても認められるので、特異的なものではない。
深部静脈血栓症患者の約50%は、無症状の可能性がある。
肺塞栓症の特徴には、原因不明の突発的呼吸困難、胸痛または胸苦しさ、喀血、虚脱などがある。一部の患者は無症状の可能性がある。
診断と治療
深部静脈血栓症は、脚の超音波スキャンを用いて臨床的に診断される。血栓症の徴候はないが、症状が持続する場合には、一般に超音波が繰り返される。
肺塞栓症は、胸部X線、肺CTスキャン、肺換気血流スキャンのうち1つ以上を用いて診断される。胸部X線の放射線量は非常に微量である。妊娠中に照射される場合は、遮蔽物を用いて胎児を保護する。
CTスキャンと換気血流(VQ)スキャンには若干の放射線リスクが存在するので、診断未確定の肺塞栓症の母体と胎児に対するリスクと比べて考える必要がある。
CTスキャンによる小児癌発症リスクは100万人に1人未満であるのに対し、VQスキャンでは28万人に1人である。一方、CTスキャンによる乳房への放射線量は、VQスキャンよりも多く、生涯にわたり乳癌リスクが上昇する可能性がある。
深部静脈血栓症と診断された後、患者は「血液を希釈する」ヘパリンという抗凝固薬を処方される。ヘパリンは、血栓が大きくなるのを阻み、徐々に溶解させるものであり、それにより新たな血栓出現リスクが低下し、肺塞栓症リスクも低下することになる。
ヘパリンには何種類かあるが、妊娠中には「低分子量ヘパリン」(LMWH)が一般的に処方される。毎日同じ時間に、場合によっては1日2回、皮下注射として投与される。投与量は体重に応じて調節される。
患者は、糖尿病のインスリン注射のように、自分で注射する方法と注射部位について指導を受ける。
通常、ほとんどの母親は入院の必要がなく、外来患者として治療を継続する。ヘパリンは残りの妊娠期間中も注射する必要がある。
低分子量ヘパリンは、胎盤を通過しないので、胎児に有害とはならない。注射部位に紫斑が現れることがあるが、通常2~3日以内に消える。アレルギー反応は、100人に1人か2人に生じる可能性がある。
注射後に発疹が認められた場合は、医師に知らせ、ヘパリンの種類を変えてもらう必要がある。
分娩が始まったと思われたら、ヘパリンを中止しなければならない。分娩誘発もしくは事前に予定されていた帝王切開の24時間前に中止する。
硬膜外鎮痛または麻酔は、最後のヘパリン注射から24時間後まで投与できない。代替となる鎮痛法が推奨される。
一般に、事前に予定されていた帝王切開から約4時間後にヘパリンを再開する。予定外の(緊急)帝王切開が最後のヘパリン注射後24時間以内に必要とされる場合には、硬膜外麻酔や脊椎麻酔を用いることなく、全身麻酔で施行される。
抗凝固薬は、出産後6週間以上経過してから処方される。ヘパリン注射を継続するか、ワルファリン錠にするかの選択は、産婦人科医と相談すべきである。
母乳育児をしている母親は、ヘパリンとワルファリンのいずれでも服用可能である。
ワルファリンは胎児に有害となるので妊娠中は処方されない。つまり、ワルファリン服用中の妊婦はそれを中止してヘパリンに切り替えることを提案される。
深部静脈血栓症に対する別の治療手段には、できる限り身体を動かすこと、段階的弾性圧迫ストッキングの使用、鎮痛薬などがある。
肺塞栓症の場合は入院が必要であり、緊急処置を施される。血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)と、さらなる血栓形成を予防する薬(抗凝固薬)が処方される。
致死的な肺塞栓症には、人工呼吸器や心臓の薬などのサポート的処置が必要となりうる。別の肺塞栓症を起こすリスクが大きい患者には、手術が必要となることもある。
出産後の受診時、産婦人科医は、血栓症の家族歴を明らかにさせるとともに、検査、避妊の選択肢、将来的な妊娠管理について説明するほか、発症した下肢への2年間にわたる段階的弾性圧迫ストッキング着用をアドバイスするものと考えられる。
血栓予防
静脈血栓塞栓症の予防方法には、できる限り身体を動かすこと、禁煙、十分な水分を摂ることによる水分補給の維持、段階的弾性圧迫ストッキングの着用のほか、過体重の患者に限り妊娠前の減量などがある。
深部静脈血栓症の既往があるなど、特定のリスク因子のある妊婦にも、ヘパリンが予防的に処方される。
ミルトン・ラム医師はメディカル・ディフェンス・マレーシア(Medical Defence Malaysia)の一員である。本稿は、有資格医師による評価の差し替え・指示・定義をする意図はない。ここでの見解は著者と関連のある組織によるものではない。さらなる情報は、starhealth@thestar.com.my宛ての電子メールで受け付けている(英語のみ)。提供した情報は教育と情報交換を目的としているだけであり、個人に向けた医師のアドバイスとして解釈しないこと。本稿に掲載した情報は、読者の医療ケアに関する医療従事者の診察に取って代わることも、それを補強することも意図していない。「The Star」社は、本稿の内容における正確性、完全性、機能性、有用性、またはその他の確実性を保証しないものとする。「The Star」社は、この情報によりこうむった間接的・直接的損失や器物破損または人身傷害の責任を放棄する。
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