コレステロール・中性脂肪(脂質異常症) - このカテゴリーに関連するニュース・情報
下記の内容は、当サイトがWeb上の英語で書かれたニュースや記事を独自に訳したものであり、当サイトはその内容、翻訳の正確性に関して一切免責とさせて頂きます。この点をご理解の上、参考になさってください。また、この翻訳文の無断利用はお控え下さい。
2010-05-26
ソース(記事原文):サイエンスデイリー
善玉コレステロールが多いほど健康に良いとは限らない
サイエンスデイリー(2010年5月26日)
心臓の健康状態の改善において高比重リポ蛋白質(又は善玉コレステロール)を増やし、低比重リポ蛋白質(又は悪玉コレステロール)を減らすことが重要であることは、誰もが耳にしたことがある。高比重リポ蛋白質は、その性質上、健康に良いものであると思われているのであるが、新しく行われた研究では、高比重リポ蛋白質がある特定の患者の健康を害する可能性があることが明らかになった。この研究は、健康に良いとされる高比重リポ蛋白質値が高いと患者によっては心血管イベントが再発する危険性が高まる可能性があることを示した初めての研究である。心血管イベントの例として挙げられるのが、胸部痛、心臓発作、そして死である。
この研究結果は、the American Heart Associationの雑誌の1つArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology誌に掲載されており、世間の注目を集めたファイザー社のトルセラピブ(善玉コレステロール値の上昇を目的に開発され、大ヒットすると噂された試験薬)の臨床試験が失敗に終わった原因を究明する手掛かりになりうる。トルセラピブの臨床試験は、2006年に中止された。試験中の心血管イベント数と患者が死亡するケース数が予想をはるかに上回ったことが原因であった。新しい研究でも示されたように、トルセラピブの臨床試験実施中に起こった心血管イベントは、高い善玉コレステロール値と関連していたのだが、その当時は、心血管イベントの原因は、はっきりとは分からなかった。
「健康に良いとされてきた善玉コレステロールが、人によっては健康を害するものであるという。これは今までの常識に反する事であるように見受けられる」とロチェスター大学医療センターの病理・臨床検査医学科のジェームズ・コルセッティ教授兼医学博士兼哲学博士(James Corsetti, M.D., Ph.D., professor of Pathology and Laboratory Medicine at the University of Rochester Medical Center)は述べた。コルセッティ氏は、この研究の代表著者でもある。「高い善玉コレステロール値と、ある特定の患者における心血管イベントの高発生率は、実際に関連していることを我々は確認した」
コルセッティ氏率いる研究チームは、斬新なグラフィックデータマッピングツールを駆使して、善玉コレステロール値が上昇した場合に心血管イベントが起こる恐れのある人々を特定した。
「善玉コレステロールを増やしても、その恩恵を受けられない人々がいる。そのような人々を特定することは重要である。なぜなら善玉コレステロール値を上昇させることを目的とした臨床試験を行う前に、そのような人々を試験の対象から外せるからである」と病理・臨床検査医学科教授兼医学博士であり、この研究の共同著者であるチャールズ・スパークス氏(Charles Sparks, M.D., professor of Pathology and Laboratory Medicine)は述べた。「それらの患者を前もって試験の対象から外しておけば、他の患者における、高い善玉コレステロール値と冠状動脈疾患リスクの低減は、相関関係にあることが確認されるだろう」
ファイザー社によるトルセラピブの臨床試験結果や本記事を含む様々な文献により、高い善玉コレステロール値が健康に害をなす可能性が高いことが示されているにもかかわらず、医薬品会社は、依然として善玉コレステロール値を上昇させる医薬品の特定に余念がない。メルク社は最近、アナセトラピブ(トルセラピブの分子的な親戚である。善玉コレステロールを増やすことを目的に開発された)に心臓発作とそれにより死亡するリスクを低減する作用があるか否かを確認するため、2011年に大規模な臨床試験を行う計画があると発表した。
健康を害するリスクが高いと判断された人々の特徴として、炎症マーカーとして知られているC反応性蛋白質の値(CRP)が高いことが、善玉コレステロール値が高いこととあわせて挙げられる。この研究の著者は、‘高い善玉コレステロール値と心血管イベント発症の予防、そして高いコレステロール値と心血管イベントの発症リスクの増大には、遺伝因子及び環境因子‐特に炎症環境‐が関わっている’との見解を抱いている。炎症環境にある場合に、心疾患発症プロセスにおいて善玉コレステロールが悪玉へと変貌を遂げるのか否かは、個々人が持つ遺伝子による。
善玉コレステロール値とC反応蛋白質値が高められた場合に健康を害するリスクが高いと判断された患者は、心血管イベントの再発とそれに関連する2つの遺伝因子を持つことを研究者は発見した。コレステロールを血管から取り除き善玉コレステロールとも関連のあるコレステロールエステル転送タンパクと炎症プロセスに影響を与え、CRPとも関連しているp22phoxである。この2つの遺伝因子は、事前に健康を害するリスクが高いと判断された患者の心血管イベントが起こるリスクを測る際に指標となる。
「我々の研究は、心血管イベントが起こる危険性が高い患者を特定することに重点を置いている」とコルセッティ氏は述べた。「それらの患者を特定し、心血管イベントが起こる原因を突き止めることが、彼ら1人1人にあった治療法を選ぶ上で役に立つかもしれない。それは、個別に治療法を提供するという我々の目標に一歩近づくことを意味する」
コルセッティ氏率いる研究チームは、最低でも心臓発作を1度経験したことのある767人の非糖尿病患者の中から、心血管イベント再発の恐れが高い人々を特定した。グラフィックデータマップは、2つのバイオマーカー(この場合は、善玉コレステロール値とC反応性タンパク質値)の高レベル値及び低レベル値と心血管イベント発症リスクの関連性を表している。グラフの最高点は、心血管イベント発症リスクの高い患者を、最低点はリスクの低い患者を表している。心血管イベント再発の有無を確認するため、2年に亘り患者の追跡調査が行われた。この患者達は、今回の研究結果の共同著者であり、ロチェスター大学医療センターの教授兼心臓病専門医でもあるアーサー・モス医学博士(cardiologist Arthur Moss M.D., professor of Medicine at the University of Rochester Medical Center)が率いる血栓形成因子及び心疾患イベント再発(THROMBO: Thrombogenic Factors and Recurrent Coronary Event)に関する研究の参加者でもあった。
この研究結果は、健康な人を対象に行われた研究結果と似ている。末期腎臓疾患及び末期血管疾患の予防(The Prevention of Renal and Vascular End-Stage Disease)に関する研究では、心血管イベントを発症したことのない患者の中から、善玉コレステロール値やC反応性蛋白質値が高く、心血管イベント発症リスクの高い患者が特定された。
コルセッティ氏、スパークス氏、そしてモス氏に、ロチェスター大学医療センターからダン・ライアン医学博士とWojciech Zareba医学博士及び哲学博士が、テキサス州サンアントニオにあるサウスウェスト・ファウンデーション・フォー・バイオメディカル・リサーチ(Department of Genetics, Southwest Foundation for Biomedical Research)の遺伝学部からデビッド・レインウォーター氏が研究に参加した。この研究は米国国立衛生研究所の心肺血液研究所の資金提供を受け、なされたものである。