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2013-03-11
ソース(記事原文):アラバマ大学バーミングハム校ニュース
広く受け入れられることのなかった心不全治療薬がメディケアおよび病院の高額医療費問題を解決するのに役立つ可能性
アラバマ大学バーミングハム校ニュース(2013年3月11日)― グレグ・ウィリアムズ(Greg Williams)著
心不全治療薬ジゴキシンは、1997年の臨床試験で「不成功」な結果に終わると、次第に使用される機会が減っていったが、初回投与後30日以内の入院リスクを34%低下させるという点で、どの薬剤でも達成できなかった効果をもたらす可能性がある。この解析結果は、米国心臓病学会(ACC)の第62回科学会議で本日大きく取り上げられ、医学誌アメリカン・ジャーナル・オブ・メディシン(American Journal of Medicine)オンライン版にも同時掲載された。
メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)は、肺炎、心発作、または心不全の患者における30日以内の再入院率が平均を上回ったとして数千の病院に対し合計で推定3億ドルの罰金を科したことから、度重なる入院を阻止することが昨年の国家的優先事項となった。
ケアが適切に行われれば、多くの入院・再入院は予防可能であるという理論的根拠に基づき、米国のヘルスケア改革の一環として、同センター(CMS)が罰則を科すこととした。このことが論議を呼ぶ問題となっているなか、メディケア加入者の5人に1人が30日以内に再入院し、年間医療費が170億ドルにものぼり、その最も一般的な原因が心不全とされる。ジゴキシンは息切れなどの急性心不全の症状を軽減することで知られるが、こうした症状は救急外来に駆け込まざるを得ないほど怖い体験をもたらす。
アラバマ大学バーミングハム校(University of Alabama at Birmingham:UAB)医学部の老人学・老年医学・緩和ケア部門の教授アリ・アハメド(Ali Ahmed)博士は「本研究は、旧薬・新薬を問わず、どの薬剤でも全原因による30日以内の入院リスクを劇的に低下させられることを示した最初の研究である」と語った。ACCの最新臨床研究報告会(Late-breaking Clinical Trial Session)の演題の一つとして、アハメド氏はアラバマ大学バーミングハム校とバーミング退役軍人病院の研究者らによる研究を本日発表した。
死亡率低下に没頭
今回の研究は、ジギタリス研究グループ(DIG)の初回試験データを再解析したもので、米国国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)と退役軍人局の共同研究プログラムから財政的援助を受けた。ジギタリス研究グループが1990年代初頭に無作為化対照臨床試験を実施したところ、ジゴキシンは慢性心不全患者における死亡リスク(総死亡率)を低下させることはできなかった。しかし、患者を3年間追跡すると、この治療薬により心不全の悪化による入院リスクが28%減少した。
ジゴキシンは「軽度から中等度の心不全」に対する経口治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の認可を得ていたにもかかわらず、死亡率を低下させなかったことから、心不全治療薬として最も処方される薬の1つから、補足的な治療薬へと処方回数が減っていった。一方、β遮断薬やアルドステロン拮抗薬のような新しい薬剤クラスが、主試験で死亡率と入院率の両方を低下させることに成功し、台頭して来た。興味深いことに、これらの薬剤クラスは長期的な入院率を減少させたものの、全原因による30日以内の再入院に対する効果が検討されることはなかった。
ジギタリス研究グループの試験では、心臓の血液ポンプ性能が心発作後または不明な原因により低下する収縮期心不全患者について検討した。ポンプの強度が減弱することから、この分野ではかつて心不全を力学的なポンプ失調と考えていた。
そこで、ミルリノンやベスナリノンのような心臓の収縮力を強化させる陽性変力作用薬が最初に試された。本剤によりポンプ強度が高まり、患者の体調が改善された一方、死亡率が上昇し、基礎疾患の経過に取り組むことはできなかった。
その後、研究者らは生体反応のせいで、心不全が悪化することを突き止めた。心臓が弱まると、体内器官は酸素・エネルギーが不足し、恐怖感を抱いた際と同じ神経系(交感神経系アドレナリン)を誘発し、心臓ポンプ機能が低下する。さらに、アドレナリンはレニン-アンジオテンシンと相互作用する。神経系の包括的用語である神経ホルモンおよび神経液性は、最初のうち作業効率を向上させようとして心腔の構造を変換(再構築)させる。
しかし、心不全が進行すると、心臓の血液を送りだす効率が衰えるまで神経ホルモンシグナルが心室の再構築を続ける。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、アルドステロン拮抗薬、およびβ遮断薬などの薬剤は、神経ホルモンを阻害して、転帰を改善させる。この薬物療法は、弱った心臓を過剰に稼働させないようにし、心腔壁の薄くなるプロセスを阻止するものである。ジゴキシンとは異なり、これらの薬剤は重要な臨床試験で死亡率と入院率を低下させ、心不全に対する一次治療となった。
アラバマ大学バーミングハム校(UAB)高齢者センターのAIM-HF(進行疾患、多疾病罹患、心不全)プログラムの責任者でUAB公衆衛生学部の疫学教授のアハメド氏は「慢性心不全にみられる高死亡率を少しでも何とかしたいという考えに取り付かれ、大半の心不全患者が高齢者であることや、心不全が高齢患者の入院・再入院の主な原因であることを忘れるところであった」と語った。「そうするうちに、我々はジゴキシンの持つ心不全の悪化に起因する入院リスクを低下させるという証明された薬効を見逃してしまった」
アハメド氏によれば、1990年代に患者の3分の2に処方されていたジゴキシンだが、ジギタリス研究グループ(DIG)試験でジゴキシンが死亡率を低下させないことが示されてから、今日およそ3分の1の処方率にまで落ちた。その後、低用量のジゴキシンが入院リスクを下げるだけでなく、死亡リスクも低下させる可能性のあることが明らかにされた。
UAB医学部内科学臨床開発部副部長で心血管疾患部門教授のロバート・バージ(Robert Bourge)博士は「ジゴキシンは変力作用を引き出す標準的な用量において死亡率を上昇させない唯一の変力作用薬である」と語った。本試験の主著者でもある同氏によれば「さらに、ジゴキシンは低用量で、β遮断薬またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬のように神経ホルモン系を遮断しうることも研究で示されている。このことに加え、全原因による30日以内の入院率を低下させられることから、この分野におけるジゴキシン使用を再考する必要があると考えられる」という。
200年以上前にジゴキシンを発見したイギリス人医師ウィリアム・ウィザーリン(William Withering)は「意見や偏見または誤解があっても、いずれこの発見の本当の価値が見直されるときがくる」と予測していた、と同氏は補足した。
著者らによれば、ジゴキシンに関する新たなデータ解析が注目されたとはいえ、今回の結果が別の試験で再現されない限り、診療が見直されることはない。つまり急性心不全後に退院した高齢者に対するジゴキシンが全原因による30日以内の再入院率を低下させるという今回の結果を再現する必要性のあることが強調される。今回の解析では外来患者における30日以内の初回入院率を用いたが、これは一般に病状悪化による入院患者が退院後1ヵ月以内に再入院した場合、どのようなことが起こりうるかを示すモデルである。
観察した外来患者における有益性が入院患者にも当てはまると考えられる兆候がある。具体的には患者の心不全が重症であるほど、有益性も大きくなることが再解析で明らかにされた。
米国国立心臓・肺・血液研究所(NHLBI)の医官で本試験の共著者ジェローム・フレグ(Jerome Fleg)博士は「高齢化社会に伴い心不全は主要な公衆衛生問題となっており、急性心不全で退院したばかりの患者における30日以内の高い再入院率を抑える薬剤は依然として存在しない」としている。
アハメド氏は「退院から短期間で再入院するリスクが高いとみられる重篤な心不全患者において、ジゴキシンが同等に有効であることを更なる研究で示すことができれば、安価な薬剤により国立病院の高額医療費問題が解決されうるとともに、その過程で高齢心不全患者の転帰が改善される可能性がある」と述べた。
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