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2014-05-06
ソース(記事原文):メドページ・トゥデイ
境界性パーソナリティ障害にセロクエルXRが有用
メドページ・トゥデイ(2014年5月6日) ― メドページ・トゥデイ編集長代理、ジョン・ゲヴェル(John Gever)著
ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院名誉教授ザルマンS.アガスMD(Zalman S. Agus, MD)、およびドロシー・カプトMA, BSN, RN,ナースプランナー(Dorothy Caputo, MA, BSN, RN, Nurse Planner)によるレビュー
アクションポイント
・この研究はアブストラクトとして学術会議で発表されたものであることに注意。査読付き学術誌に掲載されるまでは、今回のデータおよび結論は速報とみなすべきである。
・無作為化二重盲検プラセボ比較試験で境界性パーソナリティ障害の成人の治療にクエチアピンフマル酸塩を使用したところ、プラセボ群と比べ症状の重症度が有意に低下した。
【ニューヨーク市】―境界性パーソナリティ障害の患者に対し長時間作用型の抗精神病薬クエチアピンフマル酸塩(セロクエルXR)を使用するプラセボ比較試験を実施したところ、有意な改善が見られたという。研究者がここニューヨークで発表した。
報告したのは、アイオワ大学(University of Iowa)(アイオワシティ)のドナルド・ブラックMD(Donald Black, MD)。試験の8週目には、境界性パーソナリティ障害を評価する尺度(Zanarini評価尺度)のスコアが、プラセボ群と比べ徐放性クエチアピン150 mg/日群で有意に低下していた。
本試験の主要評価項目であるZanariniスコアに関して、300 mg/日の投与はプラセボに対し優越性を示せなかったものの、その他多くの尺度では150 mg/日も300 mg/日も患者の症状を改善したと、博士は米国精神医学会(American Psychiatric Association)年次総会で出席者らに話した。
境界性パーソナリティ障害の治療には薬物療法がよく利用されており、通常使用するのは抗精神病薬だが、厳密な二重盲検試験はほとんど行われていない。現在、この病気への適応が承認されている薬はないため、処方はすべて適応外として行われている。
今回の研究の関係者ではないがピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)のポール・ソロフMD(Paul Soloff, MD)は、製薬会社が境界性パーソナリティ障害を適応とするために進んで自社製品の試験を後援したり、FDAの承認を求めたりしないのがこれまでは普通だったと、『メドページ・トゥデイ』に語った。
この病気の研究で名の通ったソロフ博士によると、境界性パーソナリティ障害は極端な情緒不安定や衝動性を特徴とする病気で自殺率が高いという。そのため製薬会社は、臨床試験で自殺が起これば自社製品に悪影響となることを心配している可能性がある。
今回の試験に資金提供を行ったのは、クエチアピンの製造元であるアストラゼネカ社(AstraZeneca)だ。
試験の詳細
ブラック博士と共同研究者らは、広告や紹介を通じて採用した患者95人を、クエチアピン150 mg群、300 mg群、プラセボ群のいずれかに無作為に割り付けた。患者全員が初日に50 mgで開始してから2日目に150 mgに増量し、300 mg群については4週間後に300 mgに増量した。
患者は年齢が18~45歳、DSM-IVの境界性パーソナリティ障害の基準を満たし、スクリーニング時のZanariniスコアが9以上であることとした。
この病気の他に、妊娠から最近の自殺傾向まで多岐にわたる非精神医学的・精神医学的状態を認める患者は除外した。また、以前に非定型抗精神病薬で効果が得られなかった患者も除外した。
主要評価項目はZanariniスコアの相対的変化としたのに加え、副次評価項目は、境界性パーソナリティ障害の症状に関するいわゆるBEST指数や、うつ病・攻撃性・躁病・衝動性・全般的機能の7尺度などとした。
試験の最終的な評価時点で、3群のZanariniスコアは以下のとおりに低下した(低下は症状改善を反映)。
・プラセボ群:-6.3ポイント
・クエチアピン150 mg群:-10.6ポイント(P=0.03、対プラセボ)
・クエチアピン300 mg群:-9.7ポイント(P=0.27、対プラセボ)
レスポンダー解析でも同様のパターンとなった。各群でZanariniスコアがベースラインから50%以上低下した割合は、クエチアピン150 mg群82%、300 mg群67%、プラセボ群62%だった。この解析でも、プラセボ群と有意差があったのは150 mg群だけであった。
ブラック博士によると、クエチアピン(特に300 mg)群に割り付けられた患者はプラセボ群の患者と比べて、登録時の症状がほぼ全体的に著しく重度であったことが統計解析を複雑にしたという。統計解析の結果は、ベースライン時の重症度で調整した。
副次評価項目については、すべてにおいて300 mg群がプラセボ群よりも有意に大きく改善した。150 mg群でも同様の結果となったが、ヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale)のスコアだけはプラセボ群との差が有意まであと一歩だった(P=0.06)。
試験を早期に中止したのは、被験者の約3分の1に上った。3群の中止率に統計的有意差はなかったものの、用量依存の傾向は明らかだった。第8週の時点で300 mg群の約42%が中止していたのに対し、150 mg群では33% 、プラセボ群では20%だった。
「症状の重症度」では中止を予測できないが、「鎮静の報告」からは予測できるようであった。ブラック博士らが調べたところ、鎮静は中止との関連性があり、鎮静の報告がなかった被験者と比べるとハザード比は1.77だった(95% CIの報告なし)。
これは特に、クエチアピン300 mg群で明白であった。300 mg群における鎮静の起こりやすさは、プラセボ群の2倍だった。
そのほかにクエチアピン300 mg群で多かった有害作用は、食欲の変化と口渇だった。体重増加は問題とはならなかったようである。ただし、試験期間は2カ月だけであった。
減量は認められていなかったが、もし試験のプロトコルで認められていれば、300 mg群の有効性および有害事象の結果はもっと優れたものになっていたかもしれない、とブラック博士は話した。また、実際の場面では薬を中止したくなるような副作用が患者に認められた場合、減量は普通であるとの示唆もした。
博士は、境界性パーソナリティ障害に対する非定型抗精神病薬の有効性と安全性の理解を深めるために、もっと患者数が多く、実薬を対照とした試験を別に行うことを勧めた。
薬物療法の役割
ソロフ博士は『メドページ・トゥデイ』に対し、この病気に薬物療法を利用するかどうかは患者それぞれが呈する状態に大きく左右される、と語った。常に治療のメインとなるのは心理療法であり、薬物療法はすぐに追加されることもあれば、心理療法だけで症状をコントロールできない場合に追加されることもあるという。
患者は、心理療法に積極的に参加して治療に取り組むべきだが、中には不安定すぎてそれが無理な者もいる、と博士は話した。
「皆さんの患者に衝動性があり、気分の浮き沈みが激しく情緒不安定で怒りのコントロールもできず、心理療法に参加させるには難しい面が多い場合、まずは落ち着かせる必要があります」。「担当する患者は、心理療法室に来て腰を下ろし、皆さんが行うことにじっと付き合ってくれる人でないといけませんから」。
また博士は、薬の効果はそれほどではないのが一般的で、患者を完全に正常な状態に戻すというよりも「症状の重症度を下げる」程度であり、いろんな薬のタイプがあってそれぞれが多様な症状の一部を主にターゲットにしている、と話した。例えば、抗精神病薬は怒りを抑えるのに最も有効で、程度はそれより低いが衝動性や妄想様観念を抑える効果もあるのに対し、気分安定薬は情動の揺れを抑える。
ソロフ博士は、クエチアピンが他の非定型抗精神病薬よりも好ましいものとなるか、あるいは、そうなれるかどうかについて見解を示さなかった。その一方で、境界性パーソナリティ障害への適応をFDAが正式に承認すれば、多くの臨床医はこの薬の使用に傾くだろうと述べた。
ブラック博士も、他の非定型抗精神病薬よりクエチアピンが優れていると考える根拠は特に見当たらないことを示唆した。今回の研究でクエチアピンに焦点を絞ったのは、製薬会社の強い勧めがあったからだという。
アストラゼネカ社は、適応に向けてさらなる試験を実施することや、FDAの承認を求めていくことを予定しているかどうか示さなかった。
クエチアピン以外に、境界性パーソナリティ障害に対するプラセボ比較試験で現在検討中の薬のうち、販売されているものでは抗うつ薬エスシタロプラム(レクサプロ)、ドーパミン作動薬セレギリン(Anipryl)、刺激薬メチルフェニデート(リタリン)がある。これらの薬の試験は、いずれも製薬会社の後援を受けていないようだ。
抗精神病薬のクラスでは、低用量リスペリドン(リスパダール)の小規模プラセボ比較試験をイスラエルで実施することが2004年に発表され、完了は2009年の予定とされていた。試験結果は一切、臨床試験の情報サイト(Clinicaltrials.gov)に投稿されていないため、どうなったかは不明のままである。
他にもこのサイトには、現在進行中の小規模試験がいくつか掲載されており、オキシトシンや、名前の公表されていないNMDA受容体拮抗薬などの検討が行われている。
今回の試験にはアストラゼネカ社が資金を提供した。
研究者らは、アストラゼネカ社、大塚製薬(Otsuka)、ミリアドRBM(Myriad RBM)、イーライリリー社(Eli Lilly)、ジェネンテック社(Genentech)、および複数の出版社との関係を報告した。
ソロフ博士は、関連のある金銭的利害関係はないと明言した。
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