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2011-11-10
ソース(記事原文):ファミリープラクティスニュース
急性肺障害および急性呼吸促迫症候群(ALI-ARDS)に対するステロイドは早期投与すれば有用となる可能性
ファミリープラクティスニュース(2011年11月10日)― ダグ・ブランク(Doug Brunk)著
ホノルル ― コルチコステロイドの使用が、急性肺傷害と急性呼吸促迫症候群を有する患者に利益をもたらすのかどうかの判定はまだ下されていない、とスチーブン・ペイストアズ(Stephen M. Pastores)博士は述べている。
米国胸部内科専門医会(American College of Chest Physicians)の年次総会において、ニューヨークの米スローン・ケタリング記念がんセンター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)麻酔学&救急医学部門のペイストアズ氏は、「この件は急性肺傷害およびARDS(急性呼吸促迫症候群)に関する最大の論争となっているテーマではないかと思われる」と語った。また、「コルチコステロイドの使用に信頼を寄せている者にとっては、コルチコステロイドが有効な抗炎症薬であるとする極めて強いエビデンスが基盤にある。ALI (急性肺傷害)-ARDSに対する長期コルチコステロイド治療の使用を支持するような試験が数件存在し、高用量(1日あたりメチルプレドニゾロン120mg/kgなど)で検討された古くからある試験と比べて、副作用が有意に少なかった」と続けた。
このテーマに新たな関心が寄せられたのは約4年前のことで、初期(72時間以内)のARDS患者91人を対象とした低用量のメチルプレドニゾロン輸液が肺機能に及ぼす影響を評価した試験の発表後のことであった、と同氏は述べた。患者の約3分の2(66%)に敗血症が認められた(Chest 2007;131:954-63)。メチルプレドニゾロン輸液(1日あたり1mg/kg)群、またはプラセボ群に患者を無作為に割り付け、最長28日間投与した。主要評価項目は、肺損傷スコアにおける1点の減少、もしくは7日以内の抜管の成功とした。
ニューヨーク州のコーネル大学(Cornell University)医学・麻酔学の教授でもあるペイストアズ氏は、「本研究で重要となるのは、(研究者らによって)定期的な感染症監視が、定型的な気管支鏡検査を用いて行われたことと、神経筋遮断薬は使用されなかったことである」と述べた。
治療群の患者では、肺損傷スコアが2点以上減少したことが同研究者らによって明らかにされた。また、感染症などの合併症は有意に増加しなかったことも示されたとともに、「神経筋遮断薬を避けたため、神経筋脱力や神経障害はほとんど発生しなかった」とペイストアズ氏は話した。
ARDSの治療にステロイドを用いた試験5件(計518人)をその後再検討したところ、ステロイド用量および治療期間が試験間で異なり、感染症の監視は日常的に行われていなかったことを、ペイストアズ氏らが見出した(Intensive Care Med. 2008;34:61-9)。しかし、ARDS発症から14日目までにステロイドを投与した5件中3件の試験では、治療必要数6回でステロイド投与にわずかな効果が認められた。
ペイストアズ氏は3件の試験における245人に関して「メチルプレドニゾロン群に無作為割付された患者に目を向けた場合、死亡率は24%となり、ステロイド未投与の対照群よりも約16%低かった」と述べた。同氏は「この再調査からの我々の結論は、グルココルチコイドの長期治療は、人工呼吸器装着日数の短縮と、ICU(集中治療室)滞在日数の短縮のほか、恐らく明確な延命効果に関して、意義のある患者中心の転帰を大幅かつ有意に改善させた。ただし、これは急性肺傷害の早い段階でステロイド投与を受けた患者に限られる」としている。
さらなる試験を加えた最近の系統的レビューでは、グルココルチコイドの長期治療は、ARDS発症から14日目までに治療開始した場合、かつ治療必要数4回の場合に、「明確な延命効果」がみられると結論づけた(Crit. Care Med. 2009;37:1594-603)。治療群と対照群との間で、神経筋障害やその他の主な有害事象の発生率に有意差はみられなかった。この結果に関しペイストアズ氏は「とはいえ、慎重にならなければならない。このテーマに関する系統的レビューの全てに欠点がある。試験デザイン、患者特性、使用されたステロイドの様々な用量、投与方法、治療期間において、著しい相違が認められる」と述べている。
2008年、米国救急医学会(American College of Critical Care Medicine)によって召集された特別委員会は、中程度の用量のグルココルチコイドは、初期の重症ARDS(PaO2/FiO2[吸入気酸素濃度に対する動脈血中の酸素分圧の比]が200未満)患者に考慮すべきであるほか、遷延化ARDS患者では14日目までに考慮すべきであると結論づけた(Crit. Care Med. 2008;36:1937-49)。特別委員会の一員であるペイストアズ氏は「軽症ALI(急性肺傷害)患者に関しては、最終的結論と推奨には至らなかった。推奨とは死亡率の低減が『エビデンスレベル2B』に基づく場合であることに留意すること。エビデンスの質が『中』であったため、弱い推奨ということになる。強い推奨とならなかったのは、我々の実施した無作為化対照試験が十分優れたものではなかったからである。一方、人工呼吸器装着日数の短縮に関しては、エビデンスは『強』(1B)であり、 データ集約したところ、対照群との比較で、7日目と14日目までの抜管が倍増したことが示された」と話した。
医師によってステロイド投与と感染症監視が同時に行われるべきであり、「できれば神経筋遮断薬は避けること、そしてステロイド投与を突然中止した場合はリバウンド(反跳)の炎症が起きる現象を憂慮すること」と同氏は続けた。
また、吸入一酸化窒素が、ALI/ARDSに対する換気法以外の方法として検討されている。無作為化対照試験13件(1,303人)に関するコクラン・レビューによると、吸入一酸化窒素には全死亡率への顕著な効果は見出されなかったものの、最初の24時間に酸素化の一時的改善がみられた。また、本レビューでは人工呼吸器装着日数、人工呼吸器非使用日数、ICU入室期間、入院日数に関しても、吸入一酸化窒素に顕著な効果はみられないことが明らかにされた。さらに、成人における腎機能障害のリスク増加も認められた(Cochrane Database Syst. Rev. 2010 Oct. 23 [doi:10.1002/14651858.CD002787.pub2])。
ペイストアズ氏は「このメタ解析の結論として、死亡率への効果はなく、実際『一酸化窒素』は有害にさえなりうる」としている。
初期の重症ARDSに対する神経筋遮断薬の使用に関する興味深い結果は、48時間のシサトラクリウム静脈内投与群とプラセボ群のいずれかに340人を無作為に割り付けた多施設共同試験から得られたもので、フランスの研究者らによって2010年に発表された(N. Engl. J. Med. 2010;363:1107-16)。主要評価項目は90日死亡率と人工呼吸器非使用日数であった。治療群の患者は、プラセボ群と比較して、90日死亡率が低く、人工呼吸器非使用日数が長かった。
ペイストアズ氏は「神経筋遮断薬は、患者と人工呼吸器との同調性を改善することによって、この患者集団における肺の保護的換気を容易にする可能性がある。同剤は胸郭コンプライアンスを改善させ、酸素消費量を減少させる可能性があるほか、場合によっては肺炎症または全身性炎症を軽減させうる」と述べた。
本研究の欠点は「シサトラクリウムしか対象にしてないため、その他の神経筋遮断薬には当てはまらない可能性がある。神経筋遮断薬の薬効を相乗的に増すか、もしくは拮抗作用を示すことで知られる状態に関するデータも存在しなかった」と同氏は補足した。
ALI/ARDSに対する別の治療戦略となるエアロゾル化したβ2刺激薬の日常的使用については現時点では推奨できないが、これはエアロゾル化したアルブテロール5mg群またはプラセボ(生理食塩水)群に患者を無作為に割り付け、4時間ごとに最長10日間投与した最新試験結果に基づくものである。この主要評価項目は人工呼吸器非使用日数であり、「人工呼吸器非使用日数が改善しなかったことから、医学的無益性により、この試験を中止する必要があった」とペイストアズ氏は述べた。「実際、治療群の患者には合併症率がわずかに増加する傾向が示唆された。研究者らは、肺の保護的換気および保存的な輸液療法が、肺損傷と水分を減少させたことから、β2刺激薬を用いた追加的な肺内腔液クリアランスに更なる有益な効果がみられなくなったという理論を立てた」とも話した。
栄養素の補充の役割についても、この患者集団で検討されている。ペイストアズ氏によれば、持続的なオメガ3経腸栄養に関する3件の先行試験から、PaO2/FiO2[吸入気酸素濃度に対する動脈血中の酸素分圧の比]の改善、人工呼吸器の使用期間と集中治療室(ICU)滞在日数の短縮、臓器不全の減少、死亡率の低下が示された。しかし、成人272人を対象とした最近の無作為化対照試験では、オメガ3脂肪酸と抗酸化物質補充の1日2回併用投与により、人工呼吸器非使用日数をはじめとする臨床結果は改善されないことが示されている(JAMA 2011;306:1574-81)。同氏は「これらの患者には、こうした栄養素の補充が有害となりうるのではないかという考え方もあった」としている。例えば、60日院内死亡率は、プラセボ群と比較して、治療群で高かった(それぞれ16%対27%、P=0.054)。
ALI/ARDS患者に有望となりうる換気法以外の将来的治療には、吸入プロテインC、組織因子の抑制、スタチンのほか、重篤な市中感染性肺炎に対するステロイドの長期使用などがある、と同氏は述べた。
ペイストアズ氏は、アルトール・バイオサイエンス(Altor Bioscience)社と、スペクトラル・ディアグノスティクス(Spectral Diagnostics)社から研究助成を受けていることを開示した。
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