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2013-12-13
ソース(記事原文):ナショナル・ジオグラフィック
オキシトシンという「愛情ホルモン」が自閉症にも役立つ可能性
ナショナル・ジオグラフィック(2013年12月13日) ― スーザン・ブリンク(Susan Brink)著 (ナショナルジオグラフィックへ執筆)
新たな研究でオキシトシンが自閉症の子供に有益となる可能性が示唆された。しかし、広く利用できる準備は整っているのだろうか。
「愛情ホルモン」と名の付くものはどれも、よく吟味し、多少懐疑的な見方をする必要があるかもしれない。結局のところ、生物学に単純なものはない。
一方、 最近、オキシトシンに関する記事が大きく報道されているが、話があまりに出来過ぎているように思える。ごく最近のものでは「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)」に掲載された記事で、自閉症児17人に鼻吸入器を用いて1回噴霧することで社会情報処理過程に関与する脳領域の向上がみられたというものがある。
出産や母乳育児に果たすオキシトシンの役割についての最初の研究によると、同ホルモンは生殖ホルモンの中心的存在を担うもので、脳内視床下部で産生され、 脳下垂体から血流中へ分泌され、分娩時の筋収縮を誘発する。母親の授乳時、オキシトシンで乳頭周囲の筋細胞が収縮し、筋肉が乳汁を乳腺から乳管へ押し出すようになる。このプロセスは乳汁射出反射(すなわち催乳反射)と呼ばれ、授乳中の母親の多くに知られている。
さらに、授乳中に多くの女性が喜びを感じるが、これは性的なものとは違い感覚的なものである。とはいえ、男女でオルガスム中にオキシトシンが分泌されることを加味すると、喜びの感情が芽生えるのは意外なことではない。このホルモンは、男女間や母子間の交わりで増加する。
それだけではない。
オキシトシンの持つ潜在的有益性は、科学者の関心をそそり、マスコミの興味をかき立てた。経済学でよく使われる「信頼ゲーム」に例えると、未知のものでも投資家(消費者)の信頼を勝ち取れることを、このオキシトシン点鼻液が示した。男性にこのホルモンをひと吹き吸入してもらった後に、妻と知人女性の写真を見せると、男性は妻に対し強烈な魅力を感じると報告しており、このことは脳画像診断技術でも裏付けられており、ちょっとした一夫一妻型ホルモンとなる。
また、その他の研究で、オキシトシンが信頼・共感・寛容を高めることが明らかにされている。オキシトシンが分泌されるのは、ハグやアイコンタクトのほか、愛犬をなでる場合でもみられ、脳の快楽中枢にプラスの影響を及ぼすことが示されている。
同ホルモンが愛情ホルモンや抱擁物質として時に単純に捉えられ過ぎるのも無理はない。
オキシトシンの自閉症者への効果
オキシトシンは脳内で産生され、血液を通じて全身の感覚器官へと移動するという複雑な化学物質である。同点鼻薬を8~16歳の自閉症児に投与した後にその脳を機能的MRI技術で検討した最初の研究が、PNAS試験である。
主著者であるエール小児研究センター(Yale Child Study Center)のイラニット・ゴールドン(Ilanit Gordon)博士は「比喩的に分かりやすく説明すると、このホルモンは脳内の社会情報処理をつかさどる殻を破ることで、脳に人付き合いしやすくさせるというものである」と述べている。「それと同時に、学習の妨げとなる障害物を消し去るのにも役立つ」
一般に、自閉症者は車道に停車している車や、テーブル上にまとめた鉛筆などに興味をそそられる一方で、人間自体や人の表情を読み取ることにはあまり関心を覚えない。ゴールドン氏は「我々は人付き合いを好転させる可能性のある物質に辿り着いたのではないかと思う」と述べている。
本研究はオキシトシン噴霧が自閉症児の脳機能に影響を与えることを初めて示すものであり、自閉症児のホルモンと行動に関する小規模研究の実施が奨励される。ある研究では、自閉症成人患者15人にオキシトシンを1回投与したところ、相手の喜び、悲しみ、怒りを一層理解できるようになったことが示された。別の研究では、12~19歳の少年16人にオキシトシンを1回経鼻投与したところ、人の目や顔を見て感情の動きを読み取る力が高まったことを示した。
オキシトシン点鼻薬は自閉症の治療に認可されていないが、一部の保護者は決定的な科学的根拠はないのに使用している(多くが調剤薬局から入手) 。ASPIRE(青年期および学童期の精神医学的な介入研究)プログラムの責任者を務めるノースカロライナ大学(University of North Carolina)のリンマリ・シキク(Linmarie Sikich)氏は「こうした事態が、さまざまな自閉症児グループからなる大規模集団での検証を急ぐべき理由の一つとなっている」と述べている。
同氏は「地域住民が自閉症児にオキシトシンを個々の処方で与えていることが分かっている。同ホルモンは広く用いられているが、効き目があるのかは誰も把握しておらず、どの程度安全で、その有益性が何なのかについても知る人はいない」としている。「我々は何よりもまず安全性について調査したい」
同氏はこの春にも3~17歳の自閉症児300人を対象とした試験を開始したいとしている。半数にはオキシトシン点鼻薬1日2回6ヵ月間に投与し、残りの半数にはプラセボを噴霧する予定である。
さらなる研究の必要性
一部の医学学界では懸念が浮上しており、カリフォルニア大学(University of California)デービス校の心理学部副部長カレン・ベルズ(Karen Bales)氏もそれを唱える一人である。同氏は一夫一妻の動物プレーリーハタネズミでオキシトシンを検討したことがあり、独自の研究結果の一部を引用して、憂慮すべきこととしている。ハタネズミに青年期から成人期までオキシトシンを投与すると、予想通り結合挙動の増加が認められ、ケージ内の仲間と一緒に過ごす時間が増えた。
しかし、追跡調査で、成人期のマウスは、よく知る仲間よりも全く知らない相手を好むことが分かった。脳の調査で、これらのハタネズミは、天然オキシトシンの産生量が通常より少ないことが明らかとなった。「我々が脳内の変化を誘発していたということになる」と同氏は述べている。
オキシトシンの経鼻的投与が小児の脳の成長に及ぼす長期的な影響については、誰も解明に至っていない。PNAS試験を実施したベルズ氏とゴールドン氏は、自閉症児に役立つことで知られる集中的行動療法などの治療法を、低頻度のオキシトシンと組み合わせることで、行動療法などの有益性が高まるのか、今後ヒト試験を実施して確認したいとしている。
ベルズ氏は「オキシトシンはある程度有望であると考えている」と述べており、 ヒト試験を始める前に動物でさらなる研究を行い確認したいとしている。「我々は先を急ぎ過ぎていると思う」と続けた。
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