ゼルガー250mgは、去勢抵抗性前立腺がんの治療薬です。
前立腺は男性のみにみられる生殖器のひとつで、膀胱の真下から尿道を取り囲むように存在しています。その機能については、精子の保護作用と精液の15-20%を占める前立腺液の分泌という程度しか解明されていませんが、尿道がその中央を貫いていることから排尿のコントロールにも大きく関与していると考えられています。
前立腺がんはこの前立腺にできるがんのことで、その発症についてははっきりと解明されていませんが、主に食生活の欧米化による脂肪摂取量増加などが原因ではないかと考えられています。日本におけるこのがんによる死亡者数は年々増えており、1950年の死亡率と比較すると2000年には約17倍に増加しているとの統計もあります。また前立腺がんにかかる約90%が60歳以上と高齢者に多い病気であるため、今後の高齢化の進展に伴いその数は増えて行くと予測されており、男性のがんでは肺がんに次いで2番目の発生率になるとも言われています。
前立腺がんの治療には、手術(前立腺全摘除術)、放射線治療、ホルモン療法などがあり、病期がどの段階にあるかにより選択できる治療法や組み合わせが決まります。このうちホルモン療法は、前立腺がんが成長する原因である男性ホルモンを抑える治療方法で、精巣から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(LHRH)を抑えるLHRHアナログと呼ばれる薬と、がん細胞の成長や増殖を促進する働きを持つテストロテロンの分泌を抑制する抗アンドロゲン薬の2種類があり、いずれも高い効果を得ています。
ところがホルモン療法を続けている間に前立腺がんの性質が変わり、効き目が悪くなってPSA(前立腺特異抗原)の上昇やがんのさらなる成長がみられることがあります。このように、男性ホルモンの分泌を抑制しているにも関わらず悪化する前立腺がんを「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」と呼びます。
ホルモン療法の効果が薄くなる原因として、使用している薬剤では男性ホルモンの分泌が完全に抑えられないことが挙げられます。前立腺がん細胞は、受容体と呼ばれる受け皿が男性ホルモンと合体することで成長や増殖を促しますが、前立腺がんではこの受容体が多く作られることがわかっており、ホルモン療法で抑えきれなかったわずかな男性ホルモンと合体することで、がんが進行すると考えられています。また、この受容体そのものが男性ホルモン以外のホルモンを受け取れるように変化して、成長や増殖が促進されるというのがもうひとつの理由だと言われています。
このような去勢抵抗性前立腺がんを治療する薬がゼルガー250mgです。有効成分のアビラテロンは男性ホルモンの合成に関わる重要な酵素であるCYP17を阻害し、従来の薬剤では完全に抑えきれなかった副腎や精巣からの分泌される男性ホルモンだけでなく、がん細胞自体が前立腺内で産生する男性ホルモンに対してもその分泌を阻害します。この働きにより男性ホルモンが作られなくなり、前立腺がんの抑制効果が期待できます。
なお、アビラテロンはホルモンの原料となるコレステロールの働きを抑えることから、男性ホルモン以外の一部のホルモンの生成にも影響を与えます。それを補うため、ゼルガー250mgは副腎皮質ホルモンと似た働きを持つプレドニゾロンと併用するのが一般的です。
尚、このゼルガー250mgはかつてインドの製薬会社であるランバクシー・ラボラトリーによって製造されていましたが、インド最大の製薬会社であるサン・ファーマセウティカル社がランバクシー・ラボラトリーを買収したことに伴って、現在ではサン・ファーマセウティカルによって販売されています。